療育体験記Vol.1 西田さんの場合<中編>―就学、本当に簡単ではなかった

自閉症などの発達障がいがあるお子さんをもち、幼少期から家庭での療育に取り組んできた先輩ママ・先輩パパの療育体験記。前回に引き続き西田さん(仮名)のお話をうかがいます。

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西田さんと出逢ったのは、ADDSを創業して間もない頃。

雨の中、当時3歳のK君を連れてADDSのペアレントトレーニングプログラムの面接にやってきたのを覚えています。

“賢そうなママ”というのが第一印象。実際に家庭療育を通して関わってみると、何事もコレと決めたら突き詰める、やると決めたらキッチリやり抜くタイプ。でも決して窮屈な空気の無い、オシャレでちょっと天然?女性としても人としても本当に憧れのママです。

 

早期療育を経て、大きな成長を見せてくれたK君。(<前編>参照)

しかし、自閉症がある子どもは、集団への参加が難しいケースがしばしばあります。幼稚園や保育園、さらには学校という集団生活に入ることは、保護者にとっても子ども自身にとっても大きなハードルです。さらに、特別な支援を必要とする幼児・児童の受け入れ枠は限られていたり、十分な支援が整っていないのが現状。

<中編>では、幼稚園生活と、就学に向けた準備について、西田さんの体験談をうかがっていきます。

 

 幼稚園に向けて

 

幼稚園を決めたときのことを教えてください

まずは幼稚園を探すことが大変でした。障がいを抱えた子の受け入れがあり、面倒見がよくて、他の子どもと一緒に遊ばせてくれることがポイントでしたね。いろいろな幼稚園を見学していく中で、はじめは全然行く気がなかった、自宅から一番近い幼稚園に結局決めました。

入園前、家では自分でセラピーして、セラピストさんにも来てもらって、通所施設に行き、ADDSに行って、家事をこなして、本当に多忙でしたね。そんな状況でセラピーや療育時間を確保したままさらに幼稚園へ行こうとしたら、スケジュール的に無理が生じてきます。

その時に園長先生に週2日療育のために幼稚園を休ませてくださいと相談したんです。園長先生からは「毎週2日休むのは厳しい」と言われました。園長先生は「私には療育のことは詳しく分からない。ただ、狭い部屋で2人きりで勉強して得るものもあるかもしれないけれど、幼稚園で友達と遊ぶことで学べることもたくさんあるはずだ」とアドバイスされましたね。いろいろ迷うものもありましたが、この時点で通所施設はやめて、家庭療育だけ継続しながら幼稚園に通うと決めました。

 

 幼稚園での成長

 

幼稚園生活はどのようなものでしたか?

いざ入園してみるとまったく集団になじめなかったですね。うちの子は認知が低いけれど、社会性は高かった。でも、4月5月と集団の中にはスムーズに入れず大声を出したり、大の字になって寝そべったり、もう野生の動物みたいな様子で私の方が驚きました。先生からは「今日は職員室で過ごしました」と言われることが多かったです。それでも園に任せてくれとも言われていたので、こちらも腹を括ってお任せすることにしました。

次に、七夕の会で幼稚園の様子を見たとき、息子は輪に入って、手をたたいて歌を歌うことができていました。数か月の成長ぶりに本当に感動しました。「友達と楽しく過ごせたらいいな」とか、「なんとなくでもみんなと同じことができたらいいな」という望みが、園の協力もあって少しずつですが叶っていきました。幼稚園生活は想像以上に得るものが多かったですね。

幼稚園に通いながら、どのように家庭療育を進めていきましたか?

幼稚園に通ってからは特に、セラピーの時間の確保が難しかったですね。なので隙間時間をうまく見つけて、臨機応変にセラピーをやっていました。幼稚園から帰ってきてから少し、昼寝させてから少し、それから家事の合間に、夕食を食べてから、寝る前でもセラピーをしていました。時間を見つけて組み合わせるという感じです。

園生活から課題を見つけることもありました。登園後はまず、園服を脱いで、かけて、カバンからお弁当を出して、連絡帳を出すという作業がありました。ちょっと様子を覗くと、息子は本当にノロノロとやっていたんですね。そこで、家でもタッパーを用意して連絡帳やお弁当を出す場所に見立てて、一連の流れをスムーズにできるように練習したりしました。

 

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幼稚園での体験、先生方の協力と西田さんの継続的な家庭療育で、少しずつ社会生活を学んでいくKくん。次の大きな節目、就学 (小学校入学)が見えてきます。

就労形態など将来にも少なからず影響する選択ですから、早期から悩みを持つ保護者も多いテーマです。

障がいがあるお子さんの進路には大きく分けて3つの選択肢があります。特別支援学校(養護学校)といわれる、障がいがある児童専門の学校、小学校の特別支援学級(障害児学級、個別学級)、通常学級の3つです。

西田さんは、どのように就学に向かったのでしょうか。

 

 就学相談を受けて

 

就学先を決めるまでの経緯を教えてください

就学については、年中(5歳になる年)の秋ぐらいから動き始めました。うちの場合は、進路先によっては引っ越しも視野に入れていたのでなるべく早くから動かないといけないと思っていました。

春と秋に行われる学校公開の情報が行政のホームページに出ていて、それをチェックして色々見に行きました。何校か行くと、あそこよりこっちがいいとか比較する情報がでてくるので、自由に見に行って情報を集めることが出来るのは助かりました。

当時、療育や就学関係に詳しい親たちの間では、障がい児で通常学級に進学させたい場合には、就学相談(各自治体の教育委員会が支援が必要な子どもと保護者を対象に実施する就学前の相談)の「就学判定」を、敢えて受けないことが推奨される文化がありました。でも、うちの子は仮に受けなかったとしても就学してから何らかの支援が必要なことは明らかで、評価や判定を受けた方が自然だと思い、就学祖談を受けることにしました。

最終的に、判定結果は「特別支援学級(相当)」でした。教育委員会の見解では、息子は特別支援学級への在籍が適しているということですね。でも、うちは小学校の通常学級に在籍したいと希望していました。それからは、特別支援学級相当の判定は出たけれども通常学級に入れてくださいと学校側にお願いすることになりました。

どのようなやりとりを学校側とされたのでしょうか?

本当に簡単ではなかったです。一言でいうと校長先生は入学を断りたい、とにかく断られました。その時校長先生は、過去に私たちのような入学希望者が苦しみさんざんドロップアウトした事例について話をされましたね。私としては当時まずは通常学級でやってみてうちの子がどうなっていくのかを見てみたいと伝え、スクールシャドー(※3)に入れる用意があることも訴えました。

一つの方法論で「最終的には親の希望で公立小学校は入れる権利はあるのだから入学式は押しかけてでも行け」という情報もありましたが、そこまで私自身勇気がなかった。それに、やはり校長先生とも合意できる形での入学が望ましいと思ったので、就学前の時点で、様々努力しては学校へ話し合いに出向きました。何度も話し合いを重ねて、頭を下げて頼みこみ、最終的に校長先生から通常学級入学にOKが出たのは2月でした。本当ギリギリでしたね。

他の家庭の話を聞いてみると、一筋縄には行かないにしてもここまで難航する事例は少ないと思うので、そんなに皆さんには気負わないでほしいのですが(笑)日本では、療育方法も公的な療育機関のやりかたが好まれて、学校でのインクリュージョンやABAのように集中的なトレーニングで子どもの発達を促すような考え方はあまり理解されないというのもあったと思います。

そこまでたどり着くのには本当に周囲の人に支えられて、決して自分たちだけで戦ったわけではありません。相談機関の先生はもちろん共感して後押ししてくれましたし、幼稚園の園長先生は学校に電話してくれたり、学校へ行く前には「これは非常に難航する交渉だけれども、くれぐれもモンスターペアレントと言われないように」等と助言もしてくれました。本当に感謝しています。

 

このように、通常学級への在籍をKくんが認められるまでには、西田さんご家族の大変な努力がありました。Kくんを通常学級にトライさせたいという西田さんの判断は、長年の療育経験を踏まえ、手厚い支援があれば通常学級でも学べることがたくさんあるという具体的な見通しがあってのものでした。

一方で、保護者が子どもの得意不得意や学習のスタイルを十分把握しないまま、「なるべく定型発達の子と同じにしたい」という思いから、個別の支援無しで通常学級へ在籍させたいという場合があります。子どもの障がいの程度や特徴にもよりますが、入学してから本人も周囲もかなり苦労するケースが少なくありません。担任の先生以外に、支援員が付き添う制度を導入する自治体があり、これは重要な取り組みですが、西田さんのように子どもの特徴の把握と理論的基礎をもって的確な補助のできる支援員は、日本中探しても滅多にいないというのが私たちの肌感覚です。校長先生の「通常学級での入学は断りたい」という判断は、日本の現状においては残念ながら的確といえます。日本の学校教育の大きな課題ですし、今回の事例は「西田さんだからできた判断」であることも特記しなければいけません。

 

【注釈】
※6)スクールシャドー:幼稚園や保育園、学校で集団生活を送っている子どもたちへ、親やセラピストが、影(シャドー)のごとく寄り添い、必要なスキルを効果的に学習できるようにサポートする。