療育体験記Vol.1 西田さんの場合<前編>―何事もとことん知らないと気が済まなかった

自閉症などの発達障がいがあるお子さんをもち、幼少期から家庭での療育に取り組んできた先輩ママ・先輩パパからお話をうかがう療育体験記。

Vol.1 では、Hutteスタッフがどうしてもトップバッターをお願いしたかった、西田さん(仮名)にお話をうかがいました。

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西田さんと出逢ったのは、ADDSを創業して間もない頃。

雨の中、当時3歳のK君を連れてADDSのペアレントトレーニングプログラムの面接にやってきたのを覚えています。

“賢そうなママ”というのが第一印象。実際に家庭療育を通して関わってみると、何事もコレと決めたら突き詰める、やると決めたらキッチリやり抜くタイプ。でも決して窮屈な空気の無い、オシャレでちょっと天然?女性としても人としても本当に憧れのママです。

<前編>では、お子さんの発達の躓きへの気づきから、家庭での療育の体験談をうかがいました。

 

 障がい受容よりも大切なこと

 

お子さんの発達が気になり始めたときから診断までの経緯を教えてください

医師からは1歳の頃からすでに発達が気になると言われていました。そのときは医師の言葉が信じられず、まさか自分の子がという気持ちでした。療育施設を紹介されたけれど、当然、療育施設の存在も知らなかったですし、発達の遅れも信じられない。ただ万が一ということを考えて、2歳から区の療育施設に通いはじめました。実際に診断を受けたのは3歳でした。

お子さんの障がいについて、どのように受け入れていきましたか?

伝えられた当初は本当にショック…。障がいのことについても全く無知でしたね。今でも受け入れているかもしれないし、全く受け入れていないかもしれないし、私もよくわかりません。こんな表現は乱暴かもしれないけれど、死ぬまでに受け入れられたらいいかなと思っています。

医師や療育の専門家は、親が子の障がいを受容する姿勢について話をすることが多いですが、私はそこにあまり意味を感じていなくて。それよりも、療育が必要な子の家族がきちんと情報を得たり、療育機関とつながるなど、必要な動きができることが大事だと感じます。実際動きながらでも、お子さんの障害を受け入れることができていない親御さんも多いと思います。

障がいや重大な病気が子どもに見つかったとき、その現実を保護者が受け入れるのは、簡単なことではありません。支援者にとっても、傍で見守りながら障がい受容を促していくことは一つの大切なテーマです。

しかし、西田さんの言葉も、実際に子どもの障がいと本気で向き合う保護者の切実な思いです。

障がい受容が何かは分からない。どうすれば受容したことになるのかも分からない。それでも我が子のためにできることがあるなら一日でも早く始めたい。だから情報が欲しい、実際の支援につないで欲しいと。

その後、医師から紹介された療育だけでなく、色々な療育方法について調べ始めた西田さん。支援者や機関によっても考え方や手法が異なることを知ります。 

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 療育に対して募る疑問

 

専門家任せにせず、ご自身で情報取集をされたことには、どんな理由がありますか?

私の性格として、何事もとことん知らないと気が済まないところがあって、単純に何か手立てを探さずにはいられなかったということでしょうか。

初めは、医師の言う通りに療育施設に通っていれば、発達の遅れは病気みたいに「治る」と思っていました。だから、息子の状態を改善させるために施設の先生に言われたことは一生懸命メモをとりましたよ。でも、頻度は少なく、短時間の療育。言われることは「いろんな経験をさせてください」「自然と触れ合ってください」といった内容で、そのうち「これで本当に治るのか」という疑問が生まれました。

他の民間の療育施設を見つけて個別指導にも集団指導にも通ってみたのですが、そこもなんだか本当に効果があるのかスッキリしない。どこかで「電化製品を隠すと良い」という話を聞いては、テレビを隠したり、その通りにやってみたこともあったのですが、それはうちの子には全く効果がなかったですね(笑)そうやって、療育については疑問ばかりが募っていきました。

そんな毎日の中でABA、家庭で療育に取り組む親の会、「わが子よ声を聴かせて」(※1)という自閉症児の母親の手記などに出会いました。調べれば調べるほど、知識のない自分でもその明確な方法論は容易に理解でき、これなら納得してやっていけると思いました。

西田さんが体験したように、発達障がいに対する支援方法は、有象無象入り乱れているのが我が国の現状です。

与えられた支援の在り方を鵜呑みにせず、西田さんが「我が子に効果があるかないか」と自然に考えたことには、「母親の気概」を感じずにはいられません。

色々な支援方法に出会いながら、西田さんは応用行動分析(ABA)という理論体系に基づく療育方法に辿り着き、家庭療育を始めます。

 

 ABAと出会って

 

実際に家庭での療育を始めてどうでしたか?

ABAの家庭療育(以下、セラピー)は息子が2歳の時から始めました。つみきの会のテキストの「つみきブック」とDVDに添って、初めは私一人でやってみました。

その頃の息子はできないことだらけでした。座布団に座らせて、「こうして!」と例えばバンザイをして見せる。真似をしてほしいのですが、息子は全く何もできない状態でした。

困ったあげく、つみきの会の代表の方のコンサルテーションを受けたりもしながら、コツコツ続ける中で、ある日「こうして!」という私のお手本に、子どもが反応する日が来るんですよね。そういう小さな成長を感じることがモチベーションになっていきました。

 

家庭療育の内容はどのようなものでしたか?

セラピーで実施する課題はいろいろありました。模倣(他者の動きを真似すること)、マッチング(同じもの同士を一緒にすること)、イントラバーバル(言葉に対して言葉で応答すること)、タクト(見えたり感じたりする物事を叙述すること)など、発達の基礎となる認知やコミュニケーションの練習をしていきました。主治医からは、まず指さしがないことを指摘されていたので、それも一生懸命練習しました。はじめてエレベーターの点滅に対して息子が指さしをしたときには絶叫してほめました。もう本当に嬉しかったですね。

それから、我が家の場合は家庭療育を始めて一年くらい経ってから、ADDSの早期療育スタートアッププログラムに申し込みました。

セラピーをやっていくと「遊びの中にも課題を入れていこう」という意識が出てきます。遊びながらキャラクターの名前や色の名前を言う機会を作ったり、数を数える題材にしたり。そういうことを積極的にやる時間が増えました。遊びの中でセラピーすると、机上での練習でできるようになったことを遊びのような日常に近い場面で使ってみることができます。これは机上での学習に比べて指導者側のスキルが求められると先生にも言われましたが、まずはやってみることが大事だと思って続けました。

そうこうしているうちに、息子のできることはどんどん増えて、同時に言葉も増えていって、効果を目に見える形で実感しました。そして、ABAのやり方は間違いないということを確信していきました。

 

 療育を始めてからずっと、今も走り続けている

 

集中的に療育に取り組んでいた頃は、どんな生活でしたか?

ABAのセラピーで最も大きな効果を出すには、週何十時間もトレーニングをしなければいけない(※2)と聞いていました。我が家でできる範囲で頑張って、実際には一日3時間の計算で週20時間程セラピーをやっていましたね。午前中1時間半、午後1時間半というスケジュールで毎日。

もちろん最初から3時間なんてできなくて、中身はスカスカでしたよ。親も子どももセラピーに慣れるまでは、少しやったらすぐ休憩していました。でもそれはだんだん詰まってくるんです。30分が45分になり、1時間になり、これも(ABAの考え方と同じで)スモールステップですね。

話だけすると簡単に聞こえるかもしれませんが、毎日数時間のセラピー時間を確保し続けることは精神的にも体力的にも本当に大変。療育をスタートしてからは、必死に走り続けてここまで来たという感じで、今でも続けているので走り続けていると言った方がいいかもしれません。

もちろん、楽しいこともあり、子どもの成長を肌で感じることで充実することも多いのですが。

 

2歳~4歳まで、家庭での集中的なセラピー中心の生活を送り、劇的に認知・コミュニケーション機能が高まったKくん。

K君の世界は、家庭から、幼稚園、そして小学校へと広がっていきます。

(<中編>へ続く)

 

【注釈】
※1)「我が子よ、声を聞かせて」:キャサリン・モーリス著「我が子よ、声を聞かせて―自閉症と闘った母と子―」。自閉症がある子ども2人をもつ母親の手記。
※2)ABAの早期療育の効果:Lovaas,I.(1973), Sallows and Groupner(2005)など複数の研究において、応用行動分析の理論に基づく早期集中療育が、自閉症がある子どもの認知・コミュニケーション機能の 向上に有効であると実証されているが、大きな効果を上げるためには、週20時間以上のトレーニングが必要とされる。