自閉症などの発達障がいがあるお子さんをもち、幼少期から家庭での療育に取り組んできた先輩ママ・先輩パパの療育体験記。前回に引き続き井沢さん(仮名)のお話をうかがいます。

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<後編>では、就学に向けた情報収集や学校側とのやりとりと、実際に入学してからのY君の変化や支援の在り方について伺います。

 

 小学校を意識し始めたのは年長の4月

 

小学校進学に向けての情報収集や学校側とのやり取りはどのように進めましたか?

小学校を意識しはじめたのは、ちょうど入学1年前の年長の4月です。この段階では恥ずかしながら、 通級とか、特別支援学級とか、そのあたりの違いが分かっていなかったので、発達支援センターの ホームページなどを見て調べたり、発達障害のお子さんを育ててらっしゃる方のブログ、特に自分の子どもにタイプが似ているお子さんをお持ちの方のサイトを見つけて、就学に向けての情報収集をしました。
また、情報収集と並行して、自分の子どもの成育記録を作りました。何歳の時にどういう症状があって、どういう療育をしていたかという情報を半年ごとにまとめた資料を作りました。学校見学や 先生との面談の時に、必ず必要になってきますので、余裕があるうちに作っておいたほうが良いかなと思います。

9月の時点で普通級へいくのか通級(※1)に入れるのか、まだ悩んでいました。うちの場合は、学区外の小学校のほうが家から近いうえにに通級が校内にあり、圧倒的に条件が整っていたので、まずは学区外の学校に入学が可能かどうか市役所に問い合わせました。
ところが、発達障害があるという事情を話しても学区外への通学はダメだと言われ、あえなく撃沈。その次に、今度は通級利用にあたって、どういう手続きが必要か聞いたところ、入学してから校長経由で申請してくださいと言われました。
うちの子は環境の変化にすごく弱いので、入学直後のスタートダッシュが大切なんですね。そこで躓くと、グダグダになることは分かっていたのですが、先方は入学と同時に通級利用はできないの一点張り。

それで、困って通級を併設してる学校に連絡して通級を見学して先生とお話がしたいとお願いしたら、 あっさり通級の担任の先生を紹介してくれました。
直接相談できるとのことだったので、資料を持って行って面談し、せっかく療育を経てここまで落ち着いているので、そのペースを乱したくないと伝えました。
そうしたら、相談通級というシステムがあって、3月ぐらいから、体験入学という形で慣らし運転をしつつ、学校側と連携をして入学後に通級クラスに参加するために時間割を調整してもらうなどが可能なので、その相談通級の利用をすすめられました。

相談を経て、11月くらいには、決められた学区内の大きな学校に行き、週に半日通級に通うという方針が決まりました。
就学前の健康診断(※2)もこの頃に実施されて、ここで、簡単な知能検査もありました。
発達に心配がある人は別途面談を受けられるという案内もありました。ただ、誰と面談するかわからない状態でやるよりも、校長と話がしたいと思っていたので、その場で面談はせずに、1月に校長と面談をしました。
その場で、特にお願いしたいことをお伝えしました。具体的には、スタートが肝心なので、理解のある担任の先生をお願いしますとか、保育園から一緒に進学するお子さんと、1人でも良いので同じクラスにしてくださいとお願いしました。

2月ぐらいに保育園や幼稚園から学校に渡す、子どもに関しての引き継ぎ書という書類(※3)があるそうなんですが、保育園の担任の先生が、お母さんとして援護射撃して欲しいことはありますか、と聞いてくださったので、クラス編成のご配慮をお願いしますということを書いてもらって、援護射撃をしていただきました。
でも、最終的に、うちの場合は大どんでん返しがあって。通級について相談をした先生が異同でいなくなってしまい、引き継ぎがされておらず、3月の段階で聞いてませんと言われて、結局通級の利用は無しで、普通級にのみ行くことになってしまいました。
ただ、通級の先生と話をすると、通級でどういう対応をしているのかや、学校との連携をどうとっているのかな、さらに地域の特別支援教育の情報など、色んなことを現場の先生の意見として教えてくださるので、我が家にとっても良い情報が得られましたし、進路を決めるうえではすごく参考になりました。

入学直後に、また校長先生と担任の先生を交えた面談がありました。最初の面談から数ヶ月経っているわけですが、この間に子どもが、もうすぐ小学生だという気持ちからすごく伸びたんですね。
そのあたりの前向きなアップデートをしました。それと同時に、サポートブック、これは子どもの取扱説明書ですが、そういったものを作成して先生にお渡ししました。
パニックを起こした時は、こういう風に声をかけてあげると落ち着きますとか、授業の時ちょっとボーっとしてたら、こういう風に声をかけてくださいとか、そういった具体的な接し方というのをまとめたものです。さらに、事前に保育園の先生にお願いをして、指導者として小学校の先生が知っておくと良い情報をヒアリングをしてまとめたものをお渡ししました。
それが結構喜ばれましたね。具体的にどうしたら良いかというのが保育士という第三者の視点から挙げられているものなので、先生も素直に受け入れられたみたいですね。あまり親がガチャガチャ言うとモンスターペアレントとか言われてしまうので、あえて第三者の方のコメントとしてお渡しするのがポイントでした。実際に担任の先生もそれを参考に接してくださっていますので、今落ち着いて通えてるんじゃないかなと思っています。

 

井沢さんのお話からは、市役所と学校現場との食い違いや、新年度の異動人事で引継ぎがなされないなど、就学にあたっての行政と教育機関、現場の先生の連携の難しさや、システム運用面の未熟さがうかがえます。これは、井沢さんのお住まいの自治体に限らず、びっくりするような話を保護者の方たちから体験談としてうかがうことは少なくありません。

それでも、井沢さんはあきらめずに各方面へアプローチし、通級の先生や校長先生とも入学前に関係をつくられています。

結果として、通級へは通えないこととなってしまいましたが、その相談の期間がとても参考になったと振り返る井沢さん。子どもの就学に際しては、様々な制度上の制約や不備に振り回されることも多いですが、一番重要なマネジメントの部分をしっかりとお母様が担っていらっしゃることで、一つ一つの機会が結果として最大限のお子さんへの支援へ繋がっていきます。

 

【注釈】
※1 「通級」:通常の学級に在籍する、比較的軽度の障害がある児童生徒に対して、障害の状態に応じて特別 な指導を行うための教室。

※2 「就学時健康診断」:小学校に就学する前に行われる健康診断のこと。身体の疾患の有無や、知的発達の度合いを検査する。

※3 「就学支援シート」:幼稚園や保育園、療育機関等での子どもたちの様子や、指導において引き続き配慮が必要な点を小学校や特別支援学校に引き継ぎ、障害のある子どもの就学後の学校生活をより適切なものにしていくために作成する書類。

 

 1年生になって、子どものすごい成長力を見せつけられた


入学以降の周囲や家庭での支援、それを受けてのお子さんの成長はどういうものでしたか?

家庭での支援だと、入学前は社会性のスキルを重点的にやっていました。入学後になりますと、それまでの支援に手が回らなくなるほど、いろんなことが発生します。
まず、忘れ物が凄まじいです。宿題認識してないです。持ち物認識してない。いろんな物学校に置いてくる。
とにかく、日々の持ち物の管理で親は精いっぱいで、無事に学校に行けるように仕向けることに、今でもいっぱいいっぱいです。
例えば、連絡帳や電話を使って、明日の遠足のしおりがないんですけど、持ち物教えてくださいみたいな、本当に情けない状態なんですが、そういったことが中心になってきます。あとは、行き帰りの通学路も危ないですよね。
たとえばチョウチョを見つけてフラフラ追いかけながら、赤信号を渡っちゃうとか、そういったことが危惧されるので、そのあたりの子どもの意識を変えることですとか、親が付き添うなども必要になってきます。もしかしたらこの辺りで、場合によってはスクールシャドー(※4)的に入らなければならない時もあるのかもしれません。
ただ、私としては、極力学校にお任せをしたいスタンスなので、特に生命の危険に関わらないことであれば今は静観しています。

学校での支援といっても、今のところクラスでは特に支援というのは受けておらず、ほとんどノーケアだと思います。
というのも、誰かに危害を与えたりする様子は無く、担任の先生の言うことは絶対聞かなくてはいけないというの は、これまでの教育で刷り込まれていますので、先生にとってみれば、クラス運営上は手がかかってないと思うんですね。
逆に定型発達のお子さんで、やんちゃな子とか、言うことを聞かないお子さんとかがいっぱいいますので、そっちの方で先生はいっぱいいっぱいで、うまくいっているうちはうちの子はほったらかしではないかと思います。
それでも、入学後の子ども自身の成長は物凄いものがありました。まず就学前は保育園とか、行き帰りは必ず親と一緒ですよね。
一人で出歩く経験がなかったのが、学校に自分で行って自分で帰ってくる。あと学校が終わると学童の車が迎えに来てくれて、それに乗ってちょっと遠くの学童に行って、学校とはまた違うお子さんが集まる所で遊んで、また車で帰ってくるっていうのが、子どもにとってはすごく大冒険なんですよね。それによって、僕自分でもできるよ、1人で行って来たよっていう自信がすごく大きなモチベーションになっているみたいです。
すごく自信にあふれていて、「今僕はめちゃめちゃすごい!」「かっこいい1年生だ!」っていう気分で盛り上がっているので、それは本当に大きな成長だなぁと思っています。その気持ちを折らずに、いかに良い方向にもっていってあげるかというのが、今の私の役割なのかなと思っています。

小学校入学前は、知らない子ばかりの中で、この子はどういうやって生きていくんだろうと本当に不安で不安で、もう胃が痛くなるような状態だったのが、いざ蓋を開けてみると、今日誰々と友達になった、誰々ちゃんと仲良くしたと、物凄くポジティブなんですね。みんなと友達になるっていう目標を自分で作って、毎日帰ってきては、名簿を見て今日はこの子に話しかけた、今日はこの子にあいさつ したと報告をしてくれます。
褒めたり励ましたりして、こちらが仕向けようとしなくても、自分でどんどんやるようになって、別人のようです。なので年長から1年生にあがり、すごい子どもの成長力を見せつけられたというか、本当に親がついていけないくらい、子ども自身の伸びようとする力を強く感じました。

 

学校ではノーケアということでしたが、何かイレギュラーがある時の対応などについて、連携はありますか?

基本的に学校側から連絡は来ません。お願いしているに関わらず来ません。小学校ってそういう所なのかなと思うしかないですね。
うちの子の特徴の1つとして、ちょっとしたイベントの前に情緒不安定になる傾向があるんですね。
なので、月間の行事予定が来ると、行事の1週間ぐらい前に「今度のこの行事の時に、子どもが不安になるので、事前にスケジュールを教えてあげてください」とか、「手順を箇条書きで良いので書いて、見えるようにしておいてあげてください」というようなお願いを連絡帳を通してしています。
時間がすごく好きで、終わる時間が分からないと不安になるので、時間を含めたスケジュールを視覚的に示してもらえるようなお願いを特にしていますね。

あとは、暑いのが大っ嫌いでパニックになるので、体育の時間に気を付けてあげてくださいっていう、 ちょっと過保護のお母さん的なメモを書くんですが、本人が出してこないんですね。1週間前ぐらいから、出してね、出してねって言って3日ぐらい経って初めて先生に伝わるというような状態です。
連絡帳を出してこない時は、筆箱の開けたところに付箋で「先生に連絡帳わたしてね。ママ」と書いて貼っ付けておくなど、手探りですが、色んなことを試しています。先生とタイムリーにやり取りができるように、郵便屋さんになってくださいというのを指導中ですね。

学校からは、今日はこんなことがあって泣きましたとか、誰々とケンカしましたとか、そういった情報は保育園とか幼稚園とかと違って一切出てきません。なので、先生にとってはクラス運営上問題がない=言わなくていいっていうマインドセットなんだと思いますね。そこの細かいことには目をつぶって、うるさいこと言わず、元気に帰ってきたらそれで良いやっていう心境ですね。それで、大事なところは、事前にちょっと一筆入れるという感じですかね。

本当は副担任の先生とかいらっしゃると良いんですけど、35人を1人の先生が見ていると、どうしても 自分の子どもだけ見てくださいとは言いづらいですし、実際に見れないと思うんですね。授業参観なんか行っても、いろんなお子さんがいます。
定型発達のお子さんだと思うんですけど、うまくいっていない子、周りにちょっかい出しちゃう子とか、いろんな子がいて、その子たちに比べると、うちの子はおとなしいなぁという感じなので、尚更うちの子に注意を向けて下さいというのは、言いづらいですね。ただ、周りに危害を与えてしまうようなことですとか、放置しておくと後々大きな問題になりそうな芽は早めに摘むようには心がけています。それは、適宜面談を申し込むなどして、必要に応じて出ていかなくていけないと思っています。

 

Y君の現在の課題や目標があれば教えてください

今の課題はとにかく持ち物管理ですね。上履きを持って帰る時にランドセルにダイレクトに入れないようにとか、宿題を持って帰るとか、持っていったらちゃんと提出するとか。忘れ物をしないとか、授業中に物を落とさないとか(笑)

あともう1つは、困った時に適切に先生に支援を求めるというのも課題です。友達にちょっと危ないことをされても、自分の中で我慢をして帰ってきてしまうところがあるので、そういう時は言って良いんだよ、ちょっと具合悪かったら、保健室に行っても良いですかっていうんだよとか、自分を守る術をどんどん教えていかなければいけないと思っています。
周りのお子さんの成長は早いので、ちょっかいを出されたり、からかわれたり、嫌なことされたりっていうことがいっぱい出てくると思うんですね。そういう時に、セラピーで教えたように優しく「やめて」と言っても相手は聞いてくれませんよね。2回ぐらいやめてって言ってもやめなかったら「やめてって言ってるでしょ」って、強く言ってみよう、それでもやめてくれない時は、その場を離れようというようなスキルも教えていかなければと思っています。ソーシャルスキルや、認知行動療法ですか、そちらの方面を私も勉強しなくてはいけないですね。

 

 

井沢さんの願いどおり、とても良いスタートを切ることができたY君。

学校現場の大変な状況も把握しながら、学校側を信頼して任せるスタンスと、必要な時は保護者が積極的に意思を伝える準備と、適度な距離の取り方も、井沢さんは非常に上手だと感じます。

今は「かっこいい1年生!」のY君、今後もしかするとうまくいかないことや、挫折に直面することもあるかもしれません。それでも、井沢さんとY君なら、問題にいち早く気づき、Y君の成長の過程や学習スタイルに合わせて試行錯誤し、正解を見つけていくのだと思います。

 

【注釈】
※4:「スクールシャドー」:幼稚園や保育園、学校で集団生活を送っている子供たちに親やセラピストが、影 (シャドー)のごとく寄り添い、必要なスキルを効果的に学習できるようにサポートすること。

 

子どもたちが笑顔で毎日過ごせるように、親としてできることはやってあげて欲しい


発達の気になるお子さんを子育て中のママやパパにメッセージをお願いします

今すごく皆さん大変かもしれませんけど、お子さんの成長する力、生きていく力っていうのは絶対みんなに備わっているので、ぜひそれを信じてあげて欲しいです。そして、お子さんたちが笑顔で毎日過ごせるように、親としてできることはやってあげていただきたいなと思います。
支援のあり方に正解はないと思うんですよね。そのお子さん、そのご家庭、それぞれのご事情あるでしょうし、いろんなやり方があります。お子さんに良い変化が見られれば、それがお子さんにとっての正解なんですよね。だから、手探りでも色んなことをやってみて、これがだめだったら、今度はこっち、押してダメなら、引いてみる。 試して、もがいて、その中で、絶対自分たちにとっての正解が見えてくると思いますので、へこたれず に、頑張っていただきたいなと思います。

それから抱え込まないで、どんどんSOSを出してほしいなと思います。現に皆さん、ADDSさんとつながってらっしゃいますし、身近な人にも、ちょっと子どもで苦労してるんだよねって愚痴っても良いんじゃないかと思います。残念ながら、発達障害っていうだけで、引いてしまう方もいるかもしれませんけれども、困っていて、SOSを発信すればそれに応えてくれる方も絶対世の中いますので、抱え込まず に、身近なところから愚痴れる人を見つけて、溜め込まないようにしていただくと良いんじゃないかなと思います。

 

お母様がフルタイムで働きながら、療育機関やセラピスト、保育園、家族などのサポートをご自身が主体となってコーディネートする役割を担うのが、井沢さんの主体的な療育のスタイルです。

幼少期の集中的な家庭療育というと、子どもが一人っ子であったり、ママが専業主婦でないと難しいのでは…と想像されることもあります。しかし、私たちの保護者トレーニングプログラムに参加されるご家庭は、約半数が共働き家庭であり、母親の仕事の有無によって家庭療育の継続率に差はないというデータも得られています。

子どもの発達は一人一人違うので、井沢さんのおっしゃるように、療育にたった一つの正解はありません。保護者の主体性の発揮の仕方も様々であってよいと思います。困ったときに、試す力、もがく力、周りをどんどん巻き込む力を付けて、ご自身の家族の正解を見つけていけるご家庭がどんどん増えることを願い、私たちも支援を続けていきます。