自閉症などの発達障がいがあるお子さんをもち、幼少期から家庭での療育に取り組んできた先輩ママ・先輩パパの療育体験記。前回に引き続き井沢さん(仮名)のお話をうかがいます。

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<中編>では、早期療育を通じてY君がどう変化したかや、井沢さんがY君を保育園に預けてお仕事を続けながら療育も両立されてきた秘訣をご紹介します。

 

 コミュニケーションをとることに前向きになってくれた

 

早期療育を通じてお子さんにはどのような変化が見られましたか?

うちの子の場合は、自分が不快に思っている気持ちや、人への要求を適切に伝えられないというのが課題でした。なので、泣いたり怒ったりする前に、相手に要求を伝えられるスキルを身につけることに力を入れて取り組みました。

はじめは言葉ではなく、指差しで伝えられるようにと取り組んでいましたが、練習してる内に言葉も出てくるんですね。次第に怒ったり、ひっくり返ったりすることも減りましたし、自分からコミニュケーションをとろうという気持ちを持つようになってくれました。

そのあたりから、劇的に変わってきて、自分の要求を伝えるだけでなく、悲しい時に気持ちを言ってみたり、私が物を落としてしまった時に、拾ってニコっと笑ってみたりというような人間らしい反応が出てきました。
そこまで行くと、あとは伸びる一方で、機嫌の良い状態も続くようになりました。

お友達との関係も、Y君に話しかけると怒ったり泣いたりして終わっちゃうというような状態から、話しかけると笑ってくれるとか、面白いことを見せるとウケてくれて自分も嬉しいというような良い循環が生まれましたね。

 

初期のY君のように“不機嫌な子”というのは、一見巧みに言葉を遣う様子があるので、関わる大人も言葉で畳みかけたり、言葉で叱ることが多くなってしまいがちです。しかし、実は自分の願いや気持ちを適切に言葉で表現することに苦手がある場合がとても多いです。

Y君への療育で一番力を注いだのは、楽しい遊びの中で、Y君が「何かがほしい」とか「何かをしてほしい」と強く思うような状況を指導者が作り出し、その気持ちを言葉で伝える練習を重ねることでした。井沢さんのお話にもあるように、初めは言葉で話すことに抵抗が強いなら、指さしでも伝えられたら盛大に褒めて大急ぎで願いを叶えてあげます。成功体験を繰り返す中で自信がついてきたら、少しずつコミュニケーションのハードルをあげていきます。

ひっくり返って泣いたり怒ったりするよりも、「言葉で伝えたほうが楽しいし沢山褒めてもらえてうれしい」ということを子どもに繰り返し体感してもらうのです。
このトレーニングは、指導者側のスキルと根気が必要ですが、コツコツ継続するとお子さんが驚くほどコミュニケーションが上手になるのを実感します。
Y君の場合は、保育園のお友達との関わりにおいてもすぐに良い効果が現れたようです。

 

 家はスキルを身につける場 保育園は実践の場


保育園とのやり取りはどのような形でされていましたか?

入園時には障がいが分からなかったので、はじめは「扱いにくい子かもしれませんが…」とお伝えしました。
診断がついてからは、隠すつもりはなかったので、適切な支援が受けられるように全部正直に話し、問題点とどう育てていきたいかを園長先生や担任の先生にお伝えしてサポートをお願いしました。

また、毎朝子どもを保育園に送った時に、友達とどう接していて、どの点でつまずいているのかを観察し、その問題点に対するアプローチを考えるようにしていました。
その中で、保育園の先生方には家庭でのセラピーで何を重点的に頑張っているかと、それに対する反応の仕方を詳しくお伝えしていきました。例えば、喉が乾いた時に飲み物を「ちょうだい」と上手く言えなくても、「ちょう」まで言えたら褒めてくださいというような具体例をお伝えしました。

保育園の先生方も「発達障がいがあるので、よろしくお願いします」と言われるだけでは、どう接したら良いか分からず困ってしまいますよね。なので「こう行動したらこう反応してあげて下さい」とか「こういうことで困った行動があったときは、関わらないで放っておいて下さい」というところまで細かくお伝えしましたね。

そうすることで、子どもは褒めてもらう機会が増えたようです。保育園側も、得意な部分を皆の前で発表するようなシーンを設けてくださったり、一生懸命やろうとしていることを他のお子さんと一緒に励ましてくれたりと、対応を工夫してくださるようになりました。こちらが子どもの問題点の改善に向けて一生懸命取り組んでいる姿勢を見せたことで保育園側からも「できることは協力したいので、教えてください」と言ってもらえて、とても心強かったです。

 

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そういうことを先生に伝える時のコツはありますか?

まずは、お願いしますの気持ちですね。先方が出来ないという場合は強引にお願いはできませんし、セラピーをするのは親の仕事だと私は考えていました。スキルは家で身につけさせて、学んだことを実践する場が保育園だときっぱり線引きをしていました。

先生方とは、子どもが身につけたスキルや、興味を持っている対象などの情報を共有して、それに応じてうまく関われるようなシーン作りをお願いし、前向きに頑張ろうとしている気持ちを大切にしてあげてくださいと伝えるようにしていました。

また、個人面談の時に、子どもに対する声掛けの例や、失敗して落ち込んでる時の気持ちの切り替え方法などを箇条書きにしてお渡しして、「よければ少し目を通していただいて、保育園でもやっていただけると凄く嬉しいです」という感じでお伝えしていました。

あとは、「先生がこの前こう接してくれたので、こんなに良くなりました」というような、先生にとっても嬉しい情報を散りばめつつ、感謝の気持ちをお伝えしましたね。とにかく、先生とコミュニケーションがとれる機会は逃さないようにするべきですよね。

そうすると先生方も、適切な接し方をすれば子どもが笑顔になって雰囲気が良くなると理解してくださって、積極的に関わってくれると思います。

 

発達の気になるお子さんを保育園へ預ける場合、わが子の特徴について保育園にはどう伝えてよいか分からず、集団に馴染めず迷惑をかけていないかということばかりが気がかりという方や、逆に保育園の先生への要望がとても強くなって、折り合いが悪くなってしまう方もいらっしゃるかも知れません。

保育園の先生は、保育のプロですが、発達障がいに関する知識や支援スキルには当然ながらばらつきがあります。職務の範囲でできることとできないことがあるのは当然ですし、その保育園ごとに保育方針などの理念もあり、それを信頼してお任せする姿勢は前提として重要ですよね。

保育園との連携においては、井沢さんのおっしゃるように、「家庭ではこんな目標を決めて頑張っています。こんな困った行動には、こう対処するとうまくいくことが多いです」というように、具体的にうまくいった例を簡単にまとめてお伝えすることを私たちもお勧めしています。
「だからやってください」ではなく、「参考までに」という姿勢でお渡ししておけば、先生たちが本当に対応に困った時に取り入れていただくことができます。

 

  周りを巻き込んで、細かいことは気にしない

お仕事と家庭、療育を両立するための秘訣はありますか?

夫はセラピーに関する知識がなかったのですが、公園など外遊びに連れ出してもらった時にアスレチックをなどやらせつつ、同年齢のお子さんがいたら仲介して関わりを持たせるというようなことは、やってもらいました。あとは、掃除、買い物など家事やら私のパシリやら何でもやってもらいました。

また、私の実家が近くなので、両親に保育園のお迎えをお願いしたり、偏食が激しい子だったので、母に長年の家事経験を活かしてもらって、子どもが食べるような味付けでごはんを作って、食べさせてもらったりというサポートをしてもらいました。使えるものはもう遠慮せずにとことん使う。とにかく周り巻き込むんですね。そんな感じで動いてくれる人手を確保しました。

あとは、多少のことは目をつぶる。お掃除は掃除ロボを回して、隅っこに埃あがあろうが気にしない。洗濯はするけど、アイロンはかけない。旦那のシャツは形状記憶だけ揃える、みたいに割り切れる部分は割り切って、フォーカスすべきところを絞っていきました。

学生セラピストさんに来ていただく時間を確保するために、職場に事情を話して平日の休みをもらったり、在宅勤務をさせてもらったりして時間のやり繰りもしました。また、その日は保育園にも午前中だけ行って給食を食べたら帰宅することを了承してもらいました。

発達障がいのお子さんをお持ちで、お仕事も続けている方は本当に大変だと思いますが、お子さんのセラピーが軌道に乗ってくれば、どんどん楽になる一方ですので、両立を頑張って欲しいですね。

 

 

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家庭療育を主体的に進めるママは専業主婦が多いのでは?という印象をもつ方も多いかも知れません。しかし、私たちがこれまで関わってきた保護者の方たち、実際には共働きのご夫婦が半数ほどいらっしゃいます。

お仕事が忙しい分、時間のやりくりをテキパキとされ、井沢さんのように周囲をうまく巻き込んでいらっしゃる方が多いです。おじいちゃんやおばあちゃんだけでなく、自治体のファミリーサポートや子育てシェアなどを活用される方もいらっしゃいます。

共働きかどうかにかかわらず、将来に渡って、お子さんのことをよく知りサポートしてくれる人を増やしてあげるということは、保護者の方がお子さんにしてあげられるとても大切なことだと思います。
お子さんのためにも、ご自身が健康で冷静な心と身体でお子さんと関わっていくためにも、お子さんのことを抱え込まず、是非積極的に周囲を巻き込んでいっていただきたいです。

 

<後編>では、小学校就学に向けての準備や入学後のY君の成長ぶりについて伺います