自閉症などの発達障がいがあるお子さんをもち、幼少期から家庭での療育に取り組んできた先輩ママ・先輩パパからお話をうかがう療育体験記。

Vol.2 では、井沢さん(仮名)にお話をうかがいました。

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井沢さんは、発達障がいがあるY君の子育てをしながらも、フルタイムでバリバリ働くスーパーお母さん。
冷静な目でご自身のお子さんを観察しつつ、たっぷりの愛情で思い切りポジティブに受けとめてコツコツ療育に取り組む、そんなバランスの取れた関わりに、スタッフ一同いつも尊敬のまなざしです。

Y君は、インタビュー当時小学1年生。通常学級に、特別な補助無しで通っています。
知能に大きな遅れの無いお子さんは、“障害が軽い”と見られがちですが、実際には、「周りと同じようにできること」を求められる環境の中で、幼少期から小さな失敗体験を積み重ねてしまうリスクが高く、支援が遅れると問題が深刻化するケースも多いです。

行動上の問題が激しく大変な時期も乗り越えて、お子さんの一番の支援者であり理解者となられた井沢さんの体験談を伺っていきます。

 

<前編>では、育てにくいと感じていたという診断前のエピソードから、診断を経て家庭で始めた療育体験までをご紹介します。

 

 診断を受けても支援にはつながらなかった


お子さんの発達が気になり始めたときから診断までの経緯を教えてください

子どもが1歳前後の頃から、母親の直感として「育てにくいなぁ」という感覚がありました。抱っこがすごく嫌い、後追いもしない、喃語で何かを伝えてくることもない。
子ども側から働きかけのない日々が続いていましたが、周りからは「考えすぎよ」とか「男の子は言葉が遅いから大丈夫」と言われていたので、そんなものかなと思っていました。

ところが、保育園に入園してから、環境の変化によるストレスのせいか、癇癪や自傷行為などの気になる行動がぶわーっと出てきました。そこで、やはりおかしいと思うようになり病院で診てもらいました。

病院にかかったのは2歳の時で、具体的な知能検査などはありませんでした。
言葉をしゃべるか、指差しをするかなど年齢相応の発達をしているかを調べるシートの記入をさせられましたが、それには全然マルが付かないですよね。
さらに脳波の検査でも、言語を司る所に通常では見られない大きな乱れがあるとのことで「たぶん発達障がいだと思います」と言われました。

その後は2歳半健診とか、行政による相談の機会で子どもの行動上の問題などについて相談をしましたが、「そのうち落ち着くから」と言われるなど、特に得るものはありませんでした。

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診断を受けてからはどのように動きましたか?

病院では結局「発達障がいだねぇ、広汎性だねぇ」と言われただけで終わり。アドバイスも全くなく、これからどうしたら良いんだろうと困りました。

それで自分で調べているうちに、新聞でADDSについての記事を見つけました。
早期療育を始めると言葉が出てくるとか、ABAという療育の手法があるというような情報が載っていて「あっ、これだ」と思いました。
まずは、同じ記事で紹介されていた「つみきの会」に申し込み、ガイドブックに沿ってABAの家庭療育(以下セラピー)を始めました。

でも、子どもの抵抗が激しく、全然軌道に乗りませんでした。
椅子に座れないとセラピーができないので、1ヶ月くらい座ってもらおうと頑張りましたが、イヤーと言ってひっくり返って、暴れて頭を打ち付けてギャーみたいな状態で。
いろいろ試しながら、反応が良さそうな課題を探しました。
そのうちに、小さなお皿に1つ積み木を入れるという課題をなんとなくやってくれて、褒めながら繰り返している内に少し乗り気になってやってくれるようになったりしました。

 

井沢さんの言うように、「考えすぎよ」「男の子は言葉が遅いから」といった言葉は、保護者がお子さんの発達に悩み始めた時期に、周囲からもっともよく掛けられる言葉の一つのようです。
具体的な支援の情報が無いことや、保護者を不安にさせることなどを理由に、医師や専門家すら診断を足踏みするケースも多いと聞きます。

このような気遣いや適切な支援に関する情報の不足が、支援の遅れにつながり、幼少期のお子さんの可能性に満ちた時間を奪ってしまうこともあるのです。
しかし、井沢さんはそこで立ち止まらず、自身で情報収集をしながら支援の情報にたどり着きます。

 

 本格的に療育がスタート!毎日1時間は頑張ろう


家庭での療育ではどのように進めましたか?

本とDVDで独学でやるのにも限界があったので、うちの場合は3歳からADDSの「早期療育スタートアッププログラム」に参加しました。
支援を受けるようになってからは、弱い部分を改善したり、身につけた方が良いスキルを習得するための課題を作ってもらって、セラピーに取り組むようになりました。
仕事をしていると、子どもと接する時間がすごく少ないんですよね。保育園から6時に帰ってきて、そこから寝る時間まで3時間しかありません。

それでも、毎日1時間は頑張ることに決めました。親が手助けをしながら少しずつ子どもにやってもらって、できたら褒めるようにしました。
あと、できたら好きなお菓子とかおもちゃをあげて、できると良いことがある、頑張るといいことがあるという成功経験を積ませるような接し方をずっとしてきました。また、学生セラピストさんにも週1回程度訪問セラピーをお願いしていました。

 

療育を進めるにあたって大切にしていたことは何ですか?

通常のセラピーだと、子どもの気が散るようなものは視界に入らないように片付けたり布でカバーしたりして環境整備をするようです。
でもうちの場合は、環境を整えることに対しても子どもの抵抗が激しくて、セラピーに必要な環境作りはできませんでした。
散らかっていないとむしろ子どもが落ち着かないというような状況だったので、課題に食いついてもらうことを最優先に考えて、結構邪道なやり方をしていましたね。

学生セラピストの方にも、子どものモチベーションが高まるポイントを見極めてもらって一緒に遊びながら、「Y君って言われたらどうするんだっけ?」→「はーい!」というように、子どもには分からないように自然にコミュニケーションの課題を実施してもらったり。
デスクでやって欲しい課題の時は、パソコンで電車の動画を見せて座ってもらって「ほら座ったね、偉いね」と褒めたりして。本当にその場その場で彼の興味のあるポイントを見つけながら、臨機応変に畳みかけていく。とにかく学生セラピストさんに来てもらう、遊んでもらうってことを大切にしました。

今になって思えば、そういう遊びのスキルはすごく大切なんですよね。お友達と遊べないと、お友達から学べないし、お友達と話す機会も得られませんから。
セラピストさんにお友達になってもらって、たまに駆け引きをわざとやって負荷をかけるような経験を入れつつ進めていきました。結果的には、それでいろんなことを覚えましたし、やり取りのバリエーションを覚えてくれたかなと思います。

 

発達が気になる子どもたちの特徴は本当に様々。書籍などで紹介されている方法をそのまま当てはめようとしても、運用段階でうまくいかないということはよくあります。

井沢さんの取り組んだABAの療育でも、細かい方法論が出回っている場合もありますが、本当に重要なのは理論の根幹部分(子どもの適切な行動を引き出して、褒めて伸ばすということ)です。その他の部分には過度にとらわれず、ご自身のお子さんに合った学びのスタイルを見つけてあげることが有効です。

 

 絶対この子は伸びる!子どもを信じる気持ちはブレなかった


療育に根気強く取り組めた秘訣はありますか?

うちは型通りにはいかないんだと、開き直りました。ただ、良い所はたくさん持っていて、大人がうまく引き出してあげさえすれば、絶対この子は伸びる素質があるというのを常に心の中で思って、子どもを信じていました。そこがブレなかったのが、ここまで来れた最大の理由かなと思います。

「ご飯にしよう」「イヤー」「お風呂に入ろう」「イヤー」というような、拒否される日々が続いても、前は嫌な時は泣きわめくだけだったのに、今は「イヤって言えるようになったじゃん!」と、自分を騙しつつ(笑)ポジティブに考えていました。
親が子どもを信じるのをあきらめてしまうと、次に、前に進むエネルギーって出てこないと思うんですよ。でも、子供に笑顔でいて欲しいという気持ちさえ持っていれば、何度へこたれても、子どもは応えてくれるし、その経験は今後もいろんなところで生きてくるんじゃないかと思ってます。

 

お子さんの困った行動の中にも小さな成長を見つけ、ポジティブに捉えて次に進むエネルギーに変えてきた井沢さん。障害の有無にかかわらず、この「小さな成長を見つけて褒める」ことの積み重ねが、子育てにおいては非常に大切ですよね。<中編>では、療育を通してY君にどんな変化があったか、そして、療育と子育てとお仕事の両立について、伺っていきます。