自閉症などの発達障がいがあるお子さんをもち、幼少期から家庭での療育に取り組んできた先輩ママ・先輩パパの療育体験記。今回は西田さん(仮名)の最終回。

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西田さんと出逢ったのは、ADDSを創業して間もない頃。

雨の中、当時3歳のK君を連れてADDSのペアレントトレーニングプログラムの面接にやってきたのを覚えています。

“賢そうなママ”というのが第一印象。実際に家庭療育を通して関わってみると、何事もコレと決めたら突き詰める、やると決めたらキッチリやり抜くタイプ。でも決して窮屈な空気の無い、オシャレでちょっと天然?女性としても人としても本当に憧れのママです。

 

就学相談と、学校側との長い協議を経て、いよいよ就学を迎えるK君。(<中編>参照)
<後編>では、小学校生活からこれからの目標について、お話をうかがっていきます。

 

 

 通常学級と療育

 

実際に通常学級へ在籍してみて、どうでしたか?

大変な思いをしながらも就学し、小学校では現在も私がスクールシャドーとして入って子どものそばにいます。入学当初に「どんな感じでやっていけるか心配だから、最初の一週間見に来てほしい」と学校から言われて、結局はそれがずっと、小学3年生になった今も続いているんです。でも私としてはやる準備があったし、外部の介入を認めてくれない学校も多い中、うちは親が子どものシャドーにずっと入ることができて、療育的意味合いでは良かったと思います。

校長先生には、いつか通常学級を諦めると思われていましたが、なまじガッツがあるお母さんだったもので(笑)。今もよく面談する機会があるのですが「6年間シャドーとして通い続けるんですか?」なんて言われるようになりました。

入学当初は、新しい環境になじめなくて本当にべったりと張り付いている必要がありました。でも、通ううちにやはり成長が見られました。授業の間、少しずつ着席ができるようになったし、よくみると少し目立つ子なんだと思うけれど、なんとなく流れに乗って皆と同じような様子で生活することができるようになりました。

特別支援学級という判定を覆して通常学級に入り、大変だったことを教えてください

「特別支援学級相当」という子どもが通常学級でやっていこうとするわけですから、集団への適応はもちろんですが、学習面でも大変でした。息子は勉強という勉強が本当にできませんでした。多少なりとも分かる状態を作りたいと挑戦するも歯が立たない。一年生の一学期は息子もしんどそうな時間が多く、通常学級を諦めそうになったことは何度もあります。

うちの子は就学前からひらがな、数字は読めるようにしていましたが、手先は不器用すぎて、数字も文字も殆ど何にも書けませんでした。だから授業中の着席姿勢が整ったら、次は書字を教えていこうと考えていました。そこから猛練習が始まりました。

夏休みを使ってなんとかひらがなはマスターできたのですが、未就学の頃から計算すると、ひらがなを書けるようになるまで1年半もかかったことになります。そこからさらにカタカナ、漢字の練習が待っているのかと思うと、本当に卒倒しそうになりましたよ。

でもね、手を動かせるようになったら、すぐにカタカナ、漢字も書けるようになったんです。しかも漢字は逆に得意になりましたね。テストでは100点をとることもあって、本人の自信にも繋がっています。

 

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 “何を褒めるか”を考えることが仕事

 

息子さんへの支援において工夫したポイントがあれば教えてください

学校は教科学習の場所で、かつ授業時間が大半。正直なところテストは0点でも親はいいんですけれど、それでも子どもは学校に行かなきゃいけないから、このままでは辛い。少しは授業内容も理解させようと思いました。ただ皆と同じようには出来ないので、単元ごとに我が子なりの合格ラインと目標設定をして、頑張りを評価しました。

だから何を褒めていくのかを考えることが私の仕事です。今でこそですが、うちの子は漢字が得意になったし、あとは運動やプールは大好きだったので、それをモチベーションに何か広げてあげようと考えました。またそこにスキルが加わるともっと楽しいだろうと、つたない泳ぎですが一生懸命練習して覚えさせました。子どもが好きな活動の中で広がる課題も探すし、褒めるところをどんどん探していく、楽しい瞬間をできるだけ作っていく。さらにそこで友達と関わりながら楽しい経験が積めたらなお良いと思っています。

通っている小学校では、もともと幼稚園の顔見知りの友達が多かったのでいじめられたりすることはありませんでした。むしろみんなから可愛がってもらって、今でもクラスの中の弟分という感じでうまくやっていってます。たとえば、50m走なんかやると一生懸命走るだけでクラスメイトや先生が応援してくれる。本人もタイムとか順位関係なしに走れたことが嬉しい、そしてそれは私も同じです。周りに支えられながら、充実した学校生活を送っているわが子を見ると、通常学級を選択したことは間違っていなかったと感じます。

 

 

 息子の将来に望むこと

 

保護者が主体的に療育を行うことの意義をどのように考えていますか?

自分たち家族が療育をしていくことは、本当は大変でまっぴらというか(笑)お金を払って解決できるなら、誰かに任せてしまいたいというのが私の本音です。

でも現実は、親以上に気概をもってやってくれる施設や機関はないんですよ。

現在の日本の「療育」そのものに疑問もあります。

ある有名な療育施設の先生に「どうやって色を教えたらいいでしょうか?」と聞いてみたことがありました。その時に「何言ってるんですか?色なんて教えるものじゃないでしょう」と言われてしまいました。確かに普通の人の感覚ではそうかもしれないですね。でも息子はこのまま放っておいても色は覚えない。概念がないから殆ど発語もない。私はそれをそのまま見てはいられませんでした。

だから、私はABAの考え方を使って教えていきました。私には、色や形を教えたら彼はきっとその言葉を使って話をしたくなるのではないか、という思いがありました。それは的中して、彼は色や形を覚えた途端、街で窓の形は丸だとか、信号の色は赤だとか、沢山の発語をするようになりました。また彼自身それが分かること、話すことが楽しく、どんどん自然に話すことが増えていきました。

うちはこれでいいと、少しでも彼の発達を促したいと思いました。結局私にとって施設とは、何かを息子に教えてくれる場所ではなくて、ABAで習得したスキル、自分たちが療育をした結果の、子どもの成長を披露する場所になっていきました。こういった日本の支援機関の在り方というのは、見直す必要があるとも感じています。

 

息子さんの将来に望むことは、どのようなことですか?

私はこの子に働いてもらいたいと思っています。何でもいい、どんなことでもいいから、小さな会社の障がい者枠で職に就いてほしい。それは私たちからみたら小さく、とても単調な仕事かもしれないけど、その中で彼が楽しく、自尊心を持って生きていってほしい。彼なりに人生を豊かにしていってもらえたらと思います。障がいを持っている子どもたちがそんな未来を実現できるような支援をこの国でしてもらえたらいいですね。

 

 

 後輩のママとパパへ

 

後輩のママとパパにメッセージをお願いします

他の家庭では夫婦で協力して療育をやっていくことも少なくないですが、うちはダメ夫だったので(笑)、療育は私がメインでしたね。でも、療育への投資は全く文句を言わなかったので助かりました。あとは、仕事が休みの日は子どもを外に連れ出してくれて、子どもにも良かったと思うし、私も自由時間がとれたので本当に助かりました。家庭ごとにやり方は違うと思いますが、夫婦で役割を分担していくことは療育において重要なことだと思うので、是非ご夫婦で取り組んで欲しいです。

本当は私に偉そうなことは言えないんですよ。子どもの発達に遅れがあると言われ、診断を受けて本当にショックで、そのときの恐怖は表現できないほどでした。でも、その恐怖を勇気に変えてここまで進んで来たと思っています。今振り返ればこそ言えることですけど。あとはガッツを持つこと。周囲の人からありとあらゆることを言われ、療育方法の是非、障がい受容の姿勢の有り方、ABAに沿った療育方法の是非…全て聞いてしまうと自分がイライラしたり気持ちもめげるので、私はあまり療育の詳しい話はしなかったし周囲の話もあまり聞かなかったです。息子の成長を見て、うちはこれでいい、これでやっていくんだという思いに全くブレはありませんでした。下を向かないためにも強い意志を持ってやってきましたね。そして、私もそういう方を応援したいと思っています

 

ゆっくりと、インタビュアーと聴衆の表情を確認しながら一つ一つの言葉を紡いでくださった西田さん。

有効な支援のリソースが不足する我が国で、息子さんのその時々の状態と本気で向き合い、ご自身で考え、行動してここまでこられた日々は、インタビューの中では語りつくせないほどの苦労があったに違いありません。

それを乗り越えて、息子さんへの深い愛情と9年間分の自信を持って気丈に前を向く姿が印象的でした。

「西田さんのように誰もが頑張れるわけではない」と思う読者が大半かも知れません。

でも、西田さんのように、子どものためにできることがあるなら一日でも早く始めたい。行き詰まったとしても、わが子とともに前 を向いて進みたいと望む親が他にもたくさんいることは確かです。

そんな親子に対し、私たち支援者ができることは、その大きな志を心から応援し、様々な分野から有効な支援を提供していくことではないでしょうか。

 

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◎インタビュアー・編集 : 竹内 弓乃 ( 特定非営利活動法人ADDS 共同代表 )